エア新刊『ふたりのリノア』ネタバレのページ

 

スコ誕のおまけとしてエア新刊としてこちらに供養することにしました。

全文全掲載はできませんが、こういう話だったんだよ〜、と分かってくださればいいかなぁと。

(待ってくださっていた方には申し訳ないですが、これを書ききるメンタルがごっそりなくなってしまったのでお許しください。こんな形で出すのは正直複雑なのですが、出さないと前に進めないのです)

 

次に本を出す際は、ラブラブなスコリノ本になる予定です〜。

ほんの少しですが、どうぞ〜。

 






何度来ても、エスタ独特の人工的気候にはなかなか慣れない。
空を見上げると、手で払った蜘蛛の巣の様な筋状の雲が空を継ぎ接ぎするように長く伸びている。晴天の日、特殊ガラスは本物の空の色を透過しているとはいえ、やはり閉塞感を感じてしまう。

リノアは一昨日からここにいる。
定期検診中だった彼女は昨日まで安定していたはずだったのに、今日の朝から力が急に不安定になり一瞬暴走の気配をみせたらしい。バングルを嵌めようとした研究員が、その際に軽傷を負った。
自分が人を傷つけたことにショックを受けた彼女は、更に心が乱れ、危険と判断したオダインの指示により鎮静剤まで処方したと聞いた。
元々別のSeeDがリノアの護衛に当たっていたが、彼女の心の安定を最優先させる為に急遽俺もエスタに赴く事になり、到着したのはちょうど1時間前のこと。
部屋を訪れる前に研究員と医師に幾つか質問されたが、首を横に振るしかできなかった。結局、彼女が落ち着くまで不安定要素を突き止めるまでには至っていない。
彼女の力は精神に最も左右される。
大人から見ればまだ多感な年齢だと思うらしく、恋人同士の仲違いまで疑われた。

研究所にある魔女専用の寝室には薬の効果でぐっすりと眠っている彼女がいた。
窓に差し込む光を遮光カーテンが遮って、部屋全体をスモーキーな色に染め上げている。
彼女の趣味を反映した天蓋付きのベッドに腰掛け、心なしか具合の悪そうな、血色の薄い顔を指の背で撫でると、艶やかな髪がサラサラと枕を擦り、僅かに眉を寄せて身じろいだけれど、すぐにそのまま深い息を吐いて眠り姫に戻っていった。

軽々と抱えてしまえるこの小さな体の中に、誰よりも大きな力がある。
今回は何が原因で不安定になったのか分からないが、早く収まることを強く願って一度部屋を出た。

扉の前では神妙な面持ちの3人が待っていた。彼女に護衛として付いていたSeeDだ。
彼らはバラムに戻すことになってる。これから別任務に派遣しなければならないからだ。何も出来ないままここに4人の傭兵を待機させておく程の余裕は今のガーデンにはない。

皆一様に表情が固い。冷静を装ってはいるが、初めてのケースに密かに動揺しているのだろう。
それもそのはず、万が一彼女が制御不能になった場合、真っ先に『処理』を担うのは今も昔もSeeDなのだから。
それぞれの顔を一通り確認して、無理やり微笑んでみせた。それにつられて1人の頬が緩んだ。

「待たせてすまなかった」
「いえ……リノアさんは?」
「まだ眠っている。慌ただしくて申し訳ないが、これから3人は一度バラムに戻って次の任務についてくれ。行き先はガルバディアだ。要人警護と聞いている。詳細は戻ってから各自確認を。ラグナロクの給油が済み次第出発するから、それまで機内で待機。緊急の際はいつものサインで連絡する」
「了解しました」
SeeD独特の敬礼を返した後輩は無駄のない動きで出口へ向かっていった。

 

まだ線の細い背中を見送って、溜め込んだ息を一気に吐き出した。



あらすじ1


リノアは、エスタで突如力の制御を失います。

オダイン研究班は、リノアの精神面に原因があると分析し、催眠療法で彼女の心のケアを図ろうとします。

しかし思うような結果はえられませんでした。

心の安定が第一と考えたエスタ側は、強力なオダインバングルを装着して一時バラムへとリノアを戻します。

しばらくの間、力も安定しいつも通りの平穏を取り戻したかに見えましたが……






「うっ!……んん

彼女の呻き声でバッと目を開けた。壁のスイッチを叩くように押して明かりを点ける。

ベッドから飛び起きたスコールの眼前の光景は、彼にとっては悪夢の続きのようで、背中から一気に汗が噴き出した。

そこには、隣で眠っていたはずのリノアが、ベッド脇の床で蹲っていた。

「リノア!」

矢よりも早くスコールが抱き寄せたリノア身体は燃えるような熱さだった。彼女のお気に入りのパジャマはぐっしょりと濡れて、今は不快な布に変貌している。

「くしっ

彼の名を呼ぶこともできないリノアは、爪が白くなる程の力でパジャマの胸元を掴んでいた。

「胸が苦しいのか!?大丈夫、すぐ誰か呼ぶからな!」

スコールは彼女を抱いたまま、サイドテーブルに設置してある電話を取って内線をかけた。

どちらとも分からない動悸が余計に事態を切迫させているようで、スコールの心臓がキリキリと痛む。かけた相手は8コール目でようやく出てくれた。

《はい》

「ゼル!俺だ!部屋に来てくれ!リノアが倒れた!」

相手の言葉すら聞かず、捲し立てるかのように用件だけ告げて電話を切ると、また別の短縮ボタンを押した。

……カドワキ先生ですか!?スコールです!リノアが、リノアが倒れて!……はい、熱があります。あと、胸が苦しいみたいで!…はい、……はい、分かりました。すぐに」

話の最中に部屋に入ってきたゼルが、リノアの状態を見てすぐに外へ飛び出した。

「スコール!」

すぐに戻ってきたゼルはストレッチャーを抱えていた。廊下に備え付けてあるものだ。リノアの表情を見て、ただ事ではないと判断したのだろう。

「先生には?!

「今話した!すぐに診てくれる!」

「よしっ、ゆっくり寝かせろよ」

慎重に横たえられた彼女は服を握りしめたまま、痛みのせいか気を失っていた。スコールは紙のように白くなった頬に素早くキスを落とすとアルミ棒を握りゼルに頷き合図を送った。

「「1、2、3!」」

同時に立ち上がった二人は、同時に違和感を覚えた。

スコールは今しがた抱いていた彼女の感覚を思い出して、得体の知れない不安が襲って心が更に乱れた。

 

軽い。リノアが軽すぎる。

 

「お、おいっ、スコール!」

ハッとしてリノアに顔を向けると、鈍器でこれでもかと殴られたような衝撃を目にした。

リノア……

漏れ出た声はどちらのものだったのか  スコールもゼルも分からなかった。

 

リノアは乳白色の光に包まれ、身体は字の如く、半透明に透けてしまっていた。

 



あらすじ2


リノアは突如、原因不明の胸の痛みを訴えます。スコールとゼルが医務室へ運ぼうとした時、彼女の体が透けていることに気づきます。

彼女が倒れた同時刻、裏庭のベンチで倒れているリノアをガーデン生が見つけます。

スコールたちに運ばれたリノアとベンチで倒れていたリノア……

ふたりのリノアが同時に医務室に運ばれてきます。



リノアはリノアである。それはこの状況でも変わらない事実だ。ただ、スコールの心にいるリノアと少しだけ変わってしまっただけ。いつも通り接していればいいのかもしれない。

けれど彼は、水面で苦しそうに息をする魚のように生きた心地がしなかった。

やはり、目の前の彼女に聞くしかない。

意を決して、目の前の彼女に小さく、けれど固い意志を滲ませながら眼前の少女に言葉届けた。

「彼女は、『リノア』はどこにいるんだ?」

「……どうしたの?スコール、なんだか変だよ?」

リノアは戸惑いなのか、眉を寄せてスコールの顔を覗き込んだ。

いつものように小さく首を傾げる仕草も、黒目の大きい瞳も、愛らしくふっくらとした唇も  何もかもがリノアだ。

分かっている。スコールの視覚から得られた情報を処理している脳は十二分に分かっている。

しかし、小さな仕草や話し方、彼を見つめるときの間合い…些細な違和感を彼の心は見逃さず、リノアではないと断定している。

リノアのかたちをした別人とまでは言い切れなかったが、リノアという存在を形成する一部が欠けてしまっている。

彼はその一部こそがほんとうのリノアだと確信していた。理屈ではない、直感や本能と呼べるものが必死にスコールの裡を揺さぶっていた。

「変なのは分かってる。でも、リノアもおかしい」

言い切った彼の声を何度も噛みしめるように黙って聞いていたリノアは、拗ねるように口元をキュッと窄めた。

「スコールって、すごいね」

顔とは裏腹に彼へ賛辞を送ったリノアがスコールの左肩に頭を預けた。リノアの体は微かに震えていた。

「そうだよ。私はリノアだけどリノアじゃない。でも、それは彼女が選んだことなんだもの。あの子が私を作ったんだもの」

「作った?」

「そう。あの子が望んだことだよ。あの子はみんなが幸せになれる方法をずっと考えていた。だから、スコールの言っているリノアはあの力を持っていくことにしたの。かわりに私を残して」

「力……魔女の?持っていくって、なんのことだ」

震えていたのは『リノア』ではなく、スコール自身だと気がついたのはこの時だった。

「私はあの子を全部知っている。記憶も思い出も持ってるよ。もちろん、スコールのことも。あの子の気持ちも全部。だから、みんなの望んだリノアになれる。普通のリノアになれる」

「普通ってなんだよ……なに、言ってるんだ……」

スコールは喉が張り付いてしまった錯覚を覚えて、喘ぐように呟いた。呼吸の仕方を忘れたかのように早く、時には遅く空気を吐き出す。

リノアはそんなスコールを悲しげに見上げた。

「スコールは、あの子とわたし、どっちを選ぶ?」

 

 

 


あらすじ3


ベンチで倒れたリノアは目を覚ましたが、半透明のリノアはずっと眠ったまま。

なぜふたりになってしまったのか原因は分からない。それでも、目を覚ました方のリノアは次第に元気を取り戻していきます。言動も仕草も笑い方も、何もかもがリノアそのもので周りはホッとしますが、スコールだけは疑惑を深めていきます。何かが違うと。

スコールは意を決してそれをリノアに問い詰めます。

そして、リノアが話した真実は、スコールに衝撃を与えます。

力のあるリノアと、力のないただのリノア、オリジナルはそれをふたつに分けた。目の前にいるリノアはリノアが作ったリノアだったのです。

魔女の力を前向きに捉えつつも、リノアがいつも考えていたこと……それは、「ただのリノアに戻れたらみんなが幸せになる」ということでした。

魔女の力を抱えたリノアが消滅した時、力と肉体の分裂は完了し、力はハインに戻される。

ただのリノアに戻れるなら、このままでいいのではと思う気持ちと『作り物のリノア』という認識が拭えないスコールはどちらのリノアを選ぶべきなのか、究極の選択を迫られることになるのです。





……とまぁ、こんな形で話が進んでいきます。

(冬コミの本をお買い上げの方には、2番目・3番目の文章はお届け済みとなり被ってしまってすみません)


わたしはスコリノにハマった当初から、リノアって底抜けに明るいという子ではないと思っています。

前向きな性格は努力して勝ち取ったものだと思っています。

だから、魔女になってからも何度も「普通に戻れたら」と思うのではと考えました。

愛してくれる仲間や、スコールが『このままでもいい』と言っても、自分がそう決意するまで何度も悩み涙するのだと思うのです。その迷いは深く心にねざしてしまい、未知の力によってそれが表面出てきてしまう……そういう話を書きたかったのです。

だから、スコールが辛い目にあうというよりは、リノア自身の戦いという側面が強いお話でした。