愛をあなたへ




「ねぇ……これ、やけに黒くない?」

昨夜から入り浸っているスコールの部屋で、寝る前の話題に出ていた彼のコレクションを手に平に乗せながら呟いた。
クロスのネックレスもシンプルな指輪も、所々くすんだ黒っぽい色をしている。
わたしの中のピカピカというシルバーのイメージとかけ離れていたので、つい口から漏れると、スコールは「そうだな」と言って小さなため息を漏らした。

「ちゃんと手入れしないとすぐ酸化して表面が黒くなるんだよ」
「ふぅん」
「どっかの誰かが仕事をギュウギュウに入れてくれてるお陰で、手入れする時間がめっきり無くなったからな。おまけに、あんまり使わなくなったし」
「あ、そっか。借りてるのは、私がいっつも磨いてたからくすんでないんだね」

えっへんと腰に手を当てて自慢げに伝えると、クスッと彼は笑ってわたしの胸元に手を伸ばしてきた。

「分かってる。大事にしてくれてるもんな」

チェーンをすくい上げるように指先を滑らせようとした彼の手は、指輪の元へとは行かずに、なぜか、

「や……ちょっと!」

わたしの鎖骨を一撫でした。昨夜のように。
スコールは、悪戯っぽく目を細めてわたしの頭をもう一方の手でポンポンと弾ませる。
よかった、どうやら機嫌がよさそう。

「大事に毎日磨いてくれているんだな。ありがとう」

グリーヴァを見つめながら、わたしの心の中を覗くような瞳でじっと見つめられると落ち着かない。
結局、ゼルに作ってもらうはずのレプリカ話は有耶無耶になって、オリジナルはわたしの胸元にまだある。
あの魔女と戦ったあと、スコールに返そうとしたら、もうリノアのものだから、そう言って受け取ってくれなかった。
キスティスが「自分の代わりとして身につけてて欲しいのよ」なんて言ったけど、もしそれが本当なら……感動で飛び上がってスコールにキスしちゃうかもしれない。

「あ!そうだ!わたしが磨いてあげる!」
「リノアが?……いいのか?」
「うん。今日は特に何もすることないから」
「じゃあ、お願いする」

ほんの少し。ほんの少しだけど、スコールの役に立てることが嬉しい。

「お任せください!リノアちゃん、ピカピカにしてご覧にいれます!」

照れ隠しに軍隊よろしくそういうと、スコールは何を思ったのか     真剣な顔で両肩を掴んできた。

「あ、あの……スコール?」
「それ、ダメだ」
「え?軍人ちっくなのが?」
「違う。そんなかわいい顔、他のやつに見せるなよ」
「!」

思わぬ殺し文句に固まっていると、いつの間にか両肩の手は私の頬に添えられていて、目の前が陰って……。

「スコール、これからお仕事!」
「まだあと10分ある」

小さい子がロリポップを舐めるように、音を立てたキスを繰り返しながら、事も無げに彼は私の口元に襲いかかる。
それは、時間がない時は絶対『しない』行為を彷彿とさせて脈が跳ね上がる。彼もそれが分かってて私の中に時限爆弾を仕掛ける。
帰ったら     という彼の意思と欲が導火線だ。

「……行ってくる」
「行ってらっしゃい、意地悪さん」
「意地悪とはひどいな」

こんなふうに返してくるのもスコールの機嫌がいい証拠。嬉しくなってつい、本音が出た。

「帰ったら……ね」

彼は目を一瞬だけ見張って、そのままくるりと後ろを向いて出て行ってしまった。
でも、わたしは見逃さなかった。耳が真っ赤だったのを。
どうやら、ささやかな仕返しはうまくいったみたい。



「さ、始めますか!」

黒い天鵞絨の袋の上にゴロゴロと並べた指輪やネックレスを銀用のクロスで一つずつ丁寧に磨き、柔らかな綿で仕上げ磨きをする。
わたしは自他共に認める不器用だけど、これぐらいならなんのことはない。
本当は液体のクリーニングキットの方がよく落ちるらしい。けれど、そっちは手が荒れるからダメだと却下された。
そういうところ、スコールは過保護だなぁ、と思うけど、大事にされてるってことだと受け入れてる。
大事にされすぎてモヤモヤするときもあるけど。

全てのアクセサリーを拭き終えて、最初のミッションに取り掛かる。ポケットから『任務の立役者』を取り出すと、ピカピカになりたてのシルバーの隣へそっと仲間に入れた。
まずは一つ完了。
わたしはホッと胸を撫で下ろす。

スコールの休みは他のSeeDよりも明らかに少ない。トップという立場だから仕方ないのかもしれないけど、本来、今日は誕生日休暇のはずだった。
みんなでお祝いできれば一番良かったんだけど仲間はみんなSeeD、時間を確保するのに粘っても、結局それは叶わなかった。
だから、わたしがみんなの分まで全力でお祝いする!そう宣言して、彼らが『スコールのお祝いにしたかったこと』をできるようにサポートするのが今回の任務。

まずはゼル。
スコールの好きそうなモチーフをあしらった、彼のお手製の指輪を気付かれないようにプレゼントする。
プレゼントなんだから気付かれてもいいじゃない、そう言うとゼルは照れたように鼻の下を擦って、照れるからそっとがいい、と笑った。
普段は積極的なのに、こういうときに限ってゼルは照れる    そんなところが好ましい。
スコールが帰って来たら、磨いたシルバーを見てもらう。ゼルの作った指輪もその中に入れてある。きっと彼は見慣れない指輪に不思議そうな顔をするんだろうけど、何か聞かれたら、最初からあったよって言うつもり。

さぁ、次はキスティスの番。
彼女の携帯電話にコールする。7コール目で繋がった。

《はい、トゥリープです》
「リノアです。お疲れ様」
《あぁリノア、お疲れ様。電話がかかってきたってことは、彼が出てから1時間経ったってことね》
「うん。もう大丈夫だと思うよ」
《分かったわ。ありがとう》

手短な会話だけれど、任務完了の達成感でひとりでに頬が緩む。
キスティスがしたかったことは、スコールの仕事の負担を軽減すること。
きっと今頃、なんやかんやでキスティスが理由をつけて、スコールの内勤の仕事は激減しているはずだ。
これでスコールは今日、早めに帰ってくる。

次はセルフィとアーヴァインの番。それぞれのシフトを変更してもらう。そうすると、スコールは明日と明後日が連休になる。
これは学園長も了承済みで、キスティスの電話の後、シドさんが伝える役目になっている。
ふたりがあげたかったのは、スコールがゆっくりできる時間。セルフィは最後まで誕生日休暇をあげたかったみたい。本当のギリギリまで調整してくれてたけど、結局誕生日に休みの交代ができなかった。電話でしきりにすまなそうにしていた。
セルフィだってアーヴァインだって、そんなに休みが多いわけではないのにスコールのために……。

そして、あのひとたちの番。
預かっていた手紙をそっとデスクに並べた。


みんな、スコールのことが好き。みんなが彼を愛している。それがたまらなく嬉しい。
たとえ、一連の流れにわたしが関わることが無かったとしても、きっとみんな、彼のことを想っていてくれていたんだと思う。
子供らしくなって、そして、大人へと成長したスコールが愛おしい、と涙を滲ませながら、スコールの昔のことをイデアさんやシドさんから聞いた時、彼が辛いと思えることも辛いって認識できないくらい辛い思いをしてきたのだと知った。
ようやく心を開くことを覚えた彼の、初めての誕生日。
みんなの気持ち、きっと、スコールも分かっているはず。





「ただいま。午後の仕事が急に仕事がなくなった。なぜか明日も明後日も休みになった」

最近のスコールは嘘が下手になった。
淡々と事実を口にしているけれど、なんなんだ今日は……、ってぼやいているけど、仲間の気遣いに感謝している顔、ちゃんとしてるよ。
わたしが磨き上げたシルバーを眺めながら、一つ摘み上げて、友情の証と彫られた内側に照れてるのも、
わたしが黙って置いたエスタからのバースデーカードを眺めて怪訝そうにしているけれど、本当は嬉しくてそわそわしているのも、わかるよ。
あくびしたみたいにちょっぴり目が潤んでるのだって、全部お見通しなんだから。

「ねぇ、スコール」
「なんだ?」

わたしが黙って両腕を広げれば、スコールは瞬時に理解してくれる。
夏の冷房の部屋で、暖かな彼の温もりが体の隅々まで流れていく。

「リノア」
「なぁに?」
「さっき言ったこと……覚えてるか?」
「うん」

大好き。
大好きだよ、スコール。
泣きたいくらい、あなたを愛している。あなたに会えて、ほんとうによかった。



最後は、わたしの番。
恋人なのに状況が複雑で、素敵なプレゼントひとつ、ろくにあげられない情けないわたしだけど、精一杯の心を込めるよ。
いっぱいの愛を、あなたへ。


「昨夜のお誕生日の続きだね」

わたしがそう言うと、屈託のないほんとうのスコールが、笑った。









スコールお誕生日おめでとう(遅れてごめんよ……)

FF8は、人によって受け止め方が違う(ぶっちゃけ極端な)ナンバリングだと思います。

それでも、いろんな愛のために戦った彼らが、わたしはやっぱり好き。

ここまで愛について考えるゲームってあったかなぁ。

8は、愛と同時に人の気持ちの移り変わりも裏テーマとしてあると思います(リノアが叩かれる原因となったサイファーへの憧れからスコールへの好意もそうだし、ラグナがジュリアでなくレインを選んだものそう。エルオーネは自分の為からスコールたちの為(ここ重要)に過去を変えようとしていたのもそうだと思う)

時間とともに人の感情も変わっていく。けれど、過去は絶対に変えられない。

ゲームなのにやけにリアルなところもわたしは大好きです。

 

8はストーリーにしたら(特に7と比較すると顕著)、かなり単純構成なんですがそれ故に色々と考えさせられます。

だからスコリノはやめられんのよ〜〜〜〜〜!!!!

 

みんな幸せになりたかっただけ。

その方法が間違っていたり、分からなかっただけ。

悪いと言われている魔女でさえ、愛おしい。

わたし、全キャラクターを愛してます。誰も憎めない。(1stガンダムと同じ気分)

8を好きな方は、みんなそうなんじゃないでしょうか?

 

これからも追い続けたい。妄想したい。

引き続き、Ginbotanは、スコリノを愛していきます。

 

 

改めて、このサイトを訪れてくれるFF8とスコリノを愛する人へ愛を込めて

 

のえ

 

 

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