「5、4、3、2、1…ハッピーバースデー。スコールおめでとう」

8月23日、午前零時ちょうど、スコールの生まれた日。
大好きな彼の誕生日を一番にお祝いできたことが嬉しい。
本当はもっと大きな声でおめでとうを伝えたかったけど、真夜中の部屋で大声は出せない。でも、気持ちは伝わったみたい。

「ありがとう」
そう言って照れて頭を掻く仕草や、ふんわりと和らいだ瞳の色、頭を撫でてくれる私より大きな手。そして何よりも、私にだけ見せてくれる特別な笑顔。
その全てが、私の気持ちを受け取ってくれたと分かったから。

でも、もっと。
スコールに出会えたことや、生まれてきてくれたことが素晴らしいことなんだってて伝えたい。
どうすれば、この心を席巻している気持ちを伝えられるんだろう。
私たち以外のカップルも、こうした気持ちを抱えているんだろうな。
スコールは…スコールはそういう気持ち、あるのかな。

彼の事、もっと知りたい。
出会った時も、みんなといても、こうして二人っきりになっても、その気持ちはずっと持ち続けている。おばあさんになっても、彼の何気ない仕草や言葉でドキドキするんだ思う。
でも、そんなになるまで、隣に居られるかな。居させてくれるかな。

私たちふたりは、未来の話をあまりしない。小さなものだと、ちょっと先の休みの予定や日付指定の約束。
彼の突然の予定変更は良くあることだから、いつの間にか、それが暗黙のルールとなった。
お付き合いを始めて最初のうちは、約束が破られたことに私は落ち込んで、守れなかったことに彼が心を痛めていた。
段々とその痛みを回避する方法を覚えた結果が『約束をしない』ということだった。

恋人の醍醐味の一つが無いのは少し淋しい気もするけど、任務が延期になったり無くなった日、必ず彼は私に真っ先に会いにきてくれる。そういう時、スコールは電話やメールを使わずに直接伝えてくれる。きっと、彼なりの誠意なんだと思う。

いつだったか、彼が任務帰りの途中で大雨に降られて全身ずぶ濡れの時があった。その時も、彼はそのまま私の部屋へ直行して、休みが取れたって伝えてくれて。
あの私服だから本当に濡れ鼠で。走ってきたとすぐに分かる息遣いと、疲れた顔で「明日、ふたりで何しようか?」って優しく笑って問いかけてくれたスコールがいじらしくて、胸がきゅーっとして、訳も分からずに大泣きしてしまった。
そんな私を、躊躇いながら抱きしめてくれた時の服と腕の冷たさは、今でも大事な思い出で、思い出す度に心が暖かくなる。

だから今では、突然の変更が良くも悪くも私たちの日常を彩る一つとして存在している。ふたりじゃなかったら、こんなにドキドキワクワクすることは無かったから。

そしてもう一つ、大きなもの。
それは、私たちの今後のこと。
なるべく意識しないようにしてるけど、考えてしまうこと。
魔女になった私が、それを望んではいけないと思いつつも、捨てられない夢のようなもの。

幸せの象徴とも言えるあれは、乗っ取られていたとはいえ、厄災を起こした私には許されない。
時々流れるその手のCMや雑誌の広告、お友達になった女の子達との会話——いろんなところに散りばめられた、女の子の憧れ。
欲しくて欲しくて仕方ないのに、いつも視線を逸らしたり、はぐらかしたり。
スコールといる時も、そんな露骨な態度をとっていたから、もう彼には気付かれていたんだろうなぁ。

だから、スコールもその事に関して何も言わない。男の人からそういう話題を口にすることは殆ど無いと思うし、あったとしても、それは、覚悟を決めた時なんだと思う。

以前、スコールがSeeDの制服を着て出掛けた時、胸元に花を付けていった日があった。不思議に思って尋ねたけど、彼は笑ってキスをしてくれただけで何も教えてくれなかった。
後になってそれは特別な時のものだと知った。元SeeD、先輩の結婚式だったとゼルが教えてくれたから。

きっとあの時、スコールがその花の意味を教えてくれていたら、私は笑っていられた自信が無い。だから、あの時はそれで良かったんだと思う。
けど、そこまで気を遣わせていたことが申し訳無くて、いたたまれなかった。

だから、あの日以来、普通に話せるように努力した。わざとらしくみえる位に女の子との会話で盛り上がった。スコールの前でも遠回しに話題にした。
夢は叶わなくても、周りの幸せを心から祝福できるように。
そのうち、甘い痛みを伴うであろう思い出に変わるように。

だから彼がもし、その事で悩んだら、彼を騎士から解放してあげようと思う。
彼には家庭が絶対に必要だから。
目一杯の愛情を注いでくれるパートナーが必要だから。

本当は、スコールが私以外と…なんて考えると、胸が張り裂けそうになる。
でも、それ以上に彼が苦しむのは耐えられない。
ずっとそばにいると言いあっていても、未来はわからない。
だから………。

でも今は。
どうか、不器用過ぎるほど優しいひとを——彼を独り占めさせて欲しい。
彼との思い出を抱えられるなら、ひとりになっても、きっと平気だから。

病気だったとはいえ、誕生日プレゼントを用意出来なかったなんて、私にあるまじき失態だなぁ。
だからこそ心をこめて、この日を祝おう。

見つめあって、微笑んでいた彼の頬に手を当てた。
そのまま素早く唇を押当てると、驚いて目を丸くしたスコールと目が合った。
その顔、とってもかわいいね。

「リノ……」
「ベタだけど、誕生日プレゼントのうちの一つ。ちゃんと用意できなくてごめんね。改めて贈るから」
「そんな気を遣わなくていいのに…」
「わたしが勝手に贈りたいの。何かリクエストある?」
リクエストの言葉を聞いたとき、彼はほんの少し肩が揺れて、ひどく落ち着かなさげに目を逸らした。変な事は言ったつもりはないのに、耳が真っ赤だ。

あ、もしかして。
ベッドに腰掛けて向かい合っているから、そういうこと、なのかな?
でも、そういうことを求める時、意外とスコールはストレートに要求を伝える事が多い気がする。
あるいは、私を罠にかけてなだれ込むとか…(私が悪いとか言いがかり付けて)
なんとなくだけど、そのどちらでもなくて少し緊張する。

「スコール?」
じっと床の辺りを見つめたまま動かないスコールに段々不安になる。
まさか、知らない間に彼を怒らせたのだろうか。それとも具合が悪い?
ああ、どうしよう。全然気付かなかった。
ワタワタしそうになった私の耳に、ふいに彼の声が入ってきた。

「ある。リノアじゃないと叶えられないリクエストが」
お仕事の時の、緊張感のある声音でドキリとした。知らず知らず、居住まいを正してしまう。
視線を私の方に戻したスコールの顔は、何か決意したかのような真剣な表情だった。
青い瞳の奥が炎を灯しているように明るいのは、天井の蛍光灯のせいではないと思う。

「時間…」
「時間?」
「リノアの時間が、欲しい」
すごく抽象的な要求だった。今からの時間をスコールに捧げろということで合っているのかな?
でも、それなら始めからそうするつもりだったし、こういう特別な時間は、スコールも私に一日付き合ってくれていたから別の時間ということなのかな。

「どんな時間?」
そう聞いた時だった。
急に抱きしめられて、一瞬息が出来なくなった。

「す、スコール?!ちょっと、苦し…っ」
「あっ、すまない」
私に縋るように肩口に顔を埋めていた彼の力が少しだけ弱まった。でも、まだ離してはくれないみたい。

「このまま聞いて」
いつもは大人っぽい喋り方をするスコールだけど、時々、年相応の喋り方に戻る時がある。
そういう時は、彼の心の声が聞けるから、私はいつも以上にどきどきする。

「普段は話さないけど…話せなくしてしまっているの方が正しいのかな?でも、今日はちょっと先の事を話さないか?」
「先の事?」
「そう」
少し笑みを含んだ声が耳の近くでささめくから、くすぐったいけど我慢して彼の言葉をじっと待つ。
サラサラの髪が息継ぎの為か少しだけ動くと、息を吸い込む音が聞こえて体がその音に震えた。

「俺、二十歳になったらここを出るだろ」
「あ、そっか。SeeDって二十歳までだもんね」
「リノアがすごく悩んでるのは知ってるんだ。でも、俺にはリノア以外考えられないし、リノアじゃないとダメなんだ」
「………」
「糾弾されても構わない。誰かに反対されても曲げない。絶対リノアが傷つかないようにする」
そこで一度言葉を切ったスコールがまた腕の力を強めた。
くっついている彼の鼓動がすごく早い。それにつられて私の心臓がドクドクと鳴りだした。

もしかして。
いや、そんなはずないわ。
もしも、そうだとしたら私の砦が崩れちゃう。
お願い、やめて。

「ここを出ても、リノアと一緒にいたい」
「騎士…だから?」
「ちがう、そうじゃない。そうじゃなくて。庭に花を植えるのも、休日は一緒に料理するのも、喧嘩した時は必ず帰りにプリンを買うのも…全部、俺が…」
「それっ…て………!」
スコールの言葉は、テレビで女優が描く理想の夫婦生活の再現VTRを見ながら、私だったらこういうのが良いって彼に話した時の内容そのままだった。
ままごとみたいなこと言ったなって思ったけど、彼に同意を求めたら、読書していた顔を上げて黙って微笑んでくれてたっけ。
覚えていてくれてたんだね。

スコールは、それを自分がしたいって言ってくれた。
それって、私が夢見ていたことを叶えてくれるってことなの?

「まだ、ちゃんとした言葉は言えない。それは、ここを出て仕事をしっかり見つけてからにしたいから。だけど、誰かに取られるのは絶対に嫌だから、それまでの時間を俺にくれないか?」
「でも、でも私は……!」
もうやめて欲しかった。
スコールの言葉は、私の決意をいとも簡単に揺さぶってきたから。
だって、これ以上優しくされたら、私は望んでしまうから。
もう十分過ぎるくらい幸せなのに、欲しがってしまうから。

隠しきれないほど溢れ出てしまった涙で視界がぼやけて、私とスコールの境界があいまいだ。
涙でぐしゃぐしゃの私の顔、きっと、すごくみっともないはずだわ。

「魔女だから?誰かを不幸にしたから?それはリノアのせいじゃない」
「けど…」
「俺のわがままなんだ。リノアのそばにずっといたいんだ。家族になるなら、リノアとじゃないと、なれない」
「!」
家族。
彼が欲しがっているもの。
私も欲しいもの。
だって、いけないと知ってても…青写真には、どんなに消そうとしたって、あなたの姿しか出てこなかったから。
あなたに恋をして、愛するようになってから、ずっと夢に描いていたから。


あなたのお嫁さんに、ずっとなりたかったから。




「リノアを愛してるんだ」
「……ぅ……ひっく…」
もう嗚咽しか出てこない私の背中を、ゆっくりと叩いてくれる手のひらがとても心地よくて、涙が更に流れて出た。

「本当はずっと前から言いたかったんだ。でも、言い出せなくて。リノアが吹っ切れるのを待つつもりだった。こういう話をすればリノアを困らせると思ったし」
「すこうるぅ…」
「でも、もう我慢できなかった。ごめん」
首を必死に振ってしがみついた。謝らないといけないのは、こっちなのに。

知らなかった。スコールがそこまで考えていてくれたなんて。
そんなにも私の事を想っていてくれたなんて。

私は愚かだった。一人で勝手に考えて、勝手に諦めてた。
彼は、ずっと手を差し伸べていてくれてたのに。
彼となら何があっても平気だって信じていたはずだったのに。

「リノア…辛いのも悲しみも全部、引き受けるから。だから、正式に申し込むまでの時間を、俺に頂戴?」
「………はい」
迷うのはやめよう。
闇雲と言われても、私は彼を信じて、信じ抜いて、彼が望むならそばにいよう。
こんな私を選んでくれた彼の気持ちに、精一杯応えよう。
私も、ずっとそばにいたいから。
そばにいないと、心が死んじゃうって思い知ったから。

私の返事を聞いて、スコールは長い長い溜息をついた。心底ホッとしたようだった。
私の肩からようやく顔を上げたスコールは、額が真っ赤になっていた。
自分でもそれに気付いたのか、手で何度も触っている。

「でも、これってもう…プロポーズなんじゃない?」
「そう、かもな。でも、それはそれだから」
「へんなとこ、律儀だね」
彼らしくて思わず笑ってしまうと、スコールもクスクス笑いだした。

「でも、なんで今日言おうと思ったの?」
「あれを見たら…急に、いてもたってもいられなくて」
スコールがそう言って指差した方向に、私が持ってきた雑誌が開きっぱなしで置いてあった。

ベッドから離れてその雑誌を手に取ると、見開きでバラムの海の写真が載っていた。空には飛行機雲が大きなハートを描いている。バラムホテルのウエディングキャンペーンのものだった。なんでハートなのか、その時ようやく理解できた。
そのキャッチコピーを見て、私はしばらく笑いが止まらなかった。涙なんか、すぐに引っ込んでしまった。


私の事をそう言うけど、スコールこそ、本当に飽きないわ!











『あなたがお考えのプロポーズと式場のご予約は、お早めに』





【0823(オマケ)—Reserva se ha completado—】

END

 
ここから先は裏になります。通常通り裏に載せようと思いましたが、今回は宴席wですのでパスワードかけません。
でも、以下をご一読の上自己責任でお入り下さい!
  • 性的表現があります。18歳未満の方は読むのをご遠慮下さい
  • Sさんが少々Sっ気を出してます(当サイト比だからそんなでもない?)
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