「リノア」
ようやく笑いが収まった私に、彼は座っているベッドの隣をポンポンと叩いた。
いそいそと元の位置に戻ると、きゅっと抱きしめてくれた。
キスやその先の事も好きだけど、スコールに抱きしめてもらうのはもっと好き。

「ね、スコール」
「なに?」
「ちゃんとお礼言ってなかったから。ありがとう、とっても嬉しい」
「俺こそ、ありがとう。リノアからすごいプレゼント貰った」
「それは私の方だよ。スコール大好き」
そう伝えると彼は、相好を崩して顔を近づけてきた。

彼のキスは優しい。彼そのものだと思う。
夏のおひさまがいっぱい詰まった、あったかさがある。
唇が合わさる直前、スコール必ず一瞬立ち止まる。声に出さないけど精一杯の好きを眼差しで伝えてくれる。
最初は軽く触れるだけ。上唇は合わせたまま下唇だけ離すと、今度は最初より強めに押し当てられる。
軽いリップ音をさせてから私の唇を食む。とてもドキッとする瞬間。まだキスだけなのに、全て攫われる気持ちになる。ドキドキが加速しだすと、リンクするように彼の口付けがどんどん深まっていく。
彼の舌が入ってくる頃には、私はもう全てを委ねてしまっていて、背中にシーツの感触を捉えたと頭の片隅で認知するだけになる。

鼻先が付きそうな位置で私の表情を覗き込んでくる彼のブルーは、いたわりと情熱を伝えてきて、彼の心の一端を知る。
そして、選択権を急に私へ委任してくる。
最後のライン。戻るなら今しかないと言うように。彼のささやかなイタズラ。
そんなことしながらも彼は器用に私の服を剥ぐ。もう戻る気なんて無いくせに、彼は欲しい答えをじっと待つ。
こういう時の彼は、目で訴えても泣いても、テコでも動かない。

「スコール、しよ?」
正解を導いた私の唇は、もう彼の思うがまま。





優しくて激しい——彼はアンビバレンスな愛撫で私のパーツを攻略していく。
白旗が上がった場所は、スコールの想いでひたひたに満たされる。すぐにでも溢れてしまいそうな程に。
時々それが涙に変わると、すぐに彼が吸い取ってくれて、別の場所を潤すために移送される。
そしてまた、溢れてしまう。

今日はいつもよりも丁寧な気がして、こっそりスコールを見ると、ずっとこっちを見ていたのかバチッと目が合った。

「じれったい?」
「そんなこと……」
「うそつき」
「んんっ…!」
胸元で喋るのは反則なのに、彼は浅い谷間に顔を近づけて、故意に低い声で囁いた。
声が直接心臓に届くようで、甘いしびれが全身を駆け巡る。
私の震えを感じたのか、彼は慰めるように、胸の先端に舌を押当てて舐め上げた。

「あんっ!」
自分でも甘いと思う声が出ちゃう。むず痒い快感。無意識に掴んでいた枕に指が食い込む。

「リノア…知ってる?怖がりはスリルを楽しめる才能があるのと同じで、くすぐったがりは、そこかしこがポイントらしい」
「え?あっ!」
「リノアはすごく、くすぐったがりだから、きっとたくさん気持ちよくなれる」
上半身の攻略を済ませた指が、からかうようにショーツにかかった。
ラインを丹念に辿ってから、脚を開かせて中心部へと進んでいく。

下着越しの愛撫はとてももどかしくて、体が勝手に跳ねてしまう。
確信犯の彼は、私を陥落させる為にクロッチの縫い目を指先で引っ掻いてきた。

「ひゃん!ぁぁぁっ!」
普段は隠れているソコへ急激に熱が集中する。膨らんでしまう。
動く度にぬめりを感じる。クレバスから暖かな感触が流れ出ているのが分かって、一人で赤面してしまう。

「きもちいい?」
布を隔てた指がゆっくりとした動きで何度も窪みを辿っていく。
私がとっくに堕ちたことに気づかない彼が、私の腕を引っ張って無理矢理に体を起こした。

「はっ…!す、スコール…」
「自分で脱げる?」
体を起こされたという事は、もう彼の要求はハッキリしている。彼は…とても、とても恥ずかしいことをしたがってる。
でも、すこしだけ優越感のある行為。彼が翻弄される一瞬があるのは事実だから。
それに、今日はお誕生日だから。彼の望みは全て叶えてあげたい。

俯いて、力の入らない指でショーツを脱ぐと、花芯から溢れ出た蜜が透明な糸を引いたのが見えた。
粘度限界まで引き延ばされ、糸が切れた瞬間、体に引き戻された水滴の冷たさに体がゾクゾクした。

膝をついてゆっくり彼を跨いで服を脱いだ彼の肩に手をかけると、そのまま膝立ちにさせられた。その間も彼の愛撫は止むことが無くて、私は翻弄されてばかり。
臀部を緩やかに彷徨っていた少し骨張った指先が、私のナカへと入っていく。
ここはもうこんなだよ——と、何度も意識させるようにゆっくりと抜き差しして、彼はある場所でくいっと指を折った。

「やあぁぁぁっっっ!」
弱くて切なくて気持ちいい場所に指が当てられて、背中が仰け反った。
何も考えられなくなる。下腹部の奥底が急にうねりだす。
彼が仕事でパソコンを叩くように、トントンと一定のリズムでソコをタップすると、下半身に電気信号を送られているかのように膝がガクガクと震えだした。
耐えきれなくなって彼の首に腕を回すと、今度は指先に圧力をかけてグリグリと回し始めた。

「あっっっっっっ…………!!!!」
「ココがお気に入りなんだよな、リノアは。…イキたい?」
「い、きた………い…!」
人に言うのは憚る行為をしているのに、そんな気配を感じない柔和な笑顔を向けたスコールが、指の動きを一定のスピードへ変えた。私が一番感じてしまう速さ。もうだめ。登りつめてしまう。

「あっ、あっ、あっ!」
勝手にきゅぅぅっと彼の指を締め付けると、気泡混じりの粘液が持つ独特の、ぐちゅぐちゅという大きな音がした。淫猥な音に耳が犯される。
それを聞いたスコールが、すごいな、と感嘆の声を上げた。
そんな恥ずかしい事、お願いだから言わないで…!

「あっあっ…はっ、スコール、スコールっ!!」
「イッて、リノア。色っぽい顔、見せて」
「んん〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

ぱしん!
頭のどこかで何かが弾けた。
高所から突然突き落とされたような——体と心が分離したような感覚から、えも言われぬ快感が一気に押し寄せて、私はわたしを手放した。
達してしまうと、体中バラバラになったんじゃないかと思うくらい、頭と体の動きがちぐはぐになる。
浅い息を繰り返して、糸が切れた操り人形みたいに彼のからだに凭れ掛かると、彼の両手が再びお尻を包んだ。

「よくできました。すごくかわいかった」
「はぁっ……ま、待っ!」
「ごめん、待てない」
言うが早いか、両手で左右にくぱっと開かれた内襞が、彼が持つ熱い箇所へと当てがわれた。
お尻から腰へ回された手は男のひとの強さで、そこから逃げる事を許してくれない。
先端を使って入り口を探られる。と、私の出した愛液のせいでぐりゅっとずれて、ぷっくりと膨らんだ丸まりを擦りあげた。

「きゃあっ!」
たったそれだけなのに、さっきの絶頂が引き金になって、また小さな痙攣に襲われた。
その隙を狙っていたのか、一気に奥まで沈められてしまった。

「あぁん!」
「ぐっ……!」
全身が硬直した私の耳に、彼の小さな呻き声が聞こえてきた。
もやのかかった視界で彼の表情を追うと、目元も口も歪ませた——苦痛とも取れる顔をしていて、驚いてしまった。

「リノア、深呼吸出来るか?このままだと、ちょっとヤバい」
「んっ」
息を吸おうとしても、下腹部の圧迫感と快感でうまくいかない。
それでもどうにか呼吸を整えると、スコールがご褒美とばかりに、顎先へ小さくキスをしてくれた。

「大丈夫か?」
「うん。へいき」
「最初から死ぬかと思った。今もだけど」
「ご、ごめんなさい!」
「謝る事じゃないだろ」
「でも、私が力抜いてれば良かったのに…。上手く出来なくてごめんなさい」
「そういうの、好きじゃないな」
「え……?」
半ば呆れ声の恋人の声を聞くのは何度目だろう。
私、こういう時になるといつも失敗してばかり。やだな、悲しくなってくる。

「あ。やっ!…えっ?」
もう少しで体が馴染むと思っていた矢先、急にズルッと引き抜かれて、そのままうつ伏せにさせられてしまった。
冷房の風が背中を駆け抜けて、反射的に鳥肌が立つ。

首だけ彼に振り返ると、真顔のスコールが私に覆い被さってきて、予告も無しに耳朶を舐めねぶりだした。

「や、やだぁ!」
チロチロと動く舌が耳の穴を一舐めして、ふうっと息を吹き込まれると、全身が瞬時に粟立った。顔にぶあっと血液が集まって、唾液で濡れた耳が一層熱くなった。
胸を包んでいた彼の手に、瞬間的にツンと固くなった先端が摘まれてしまって、そことは別の位置が刺激に反応してキュッと狭まる感じがした。

「予定変更。俺の上で可愛いところが見たかったけど…無自覚過ぎるから、分からせる」
「えっ…?」
物騒な言葉で宣言した彼の言葉とは裏腹に、背筋に落とされたキスは優しかった。
けれど、無言で私を四つん這いにさせて、もう受け入れられるのに最初からやり直すみたいに、指をナカへ収めた。
スローテンポで抜き差しされると、じわりと広がる感覚に反応して腰を突き出してしまう。
でもさっきと違って、あの場所には全く触れてくれない。
もっともっと欲しくて仕方なくて、頭がどうにかなりそう。
いつの間に私って、こんなにはしたなくなっちゃったんだろう。

「もしかして、指なんかじゃ足りない?」
「……………!」
「素直じゃないリノアもかわいいな。素直なリノアはもっとかわいいけど」
彼は独り言のように呟いて、背中に何度も強く口付けている。ピリッとした痛みがこんなに快感だなんて、彼には言えない。
普段も背中に口付けされる事はあったけれど、今日は特にご執心。その理由は分からない。
そんなキスを繰り返していた彼は、引き抜いた指で私の襞をくつろげ、その先の尖りを弄り始めた。

「やんっ!ゆび、だめ!だめってば……!またっ……!」
またあの感覚が襲ってきて、腕が体を支えきれずにガクッと突っ伏してしまい、結果としてお尻を突き出すかたちになってしまった。
もう死んでしまいたくなる程恥ずかしいのに、体勢を元に戻せない。

「指じゃなきゃいいのか?」
飄々と応酬してきたスコールがぐるりと私の体の向きを変えた。有無を言わせず私の中心に顔を埋めると、指で嬲られた場所にチュッと吸い付いた。

「あぁっ!」
舌と歯と唇が全く違う動きで一点を責めてくる。刺激が強過ぎて、頭の回路がクラッシュしそう。
懇願を込めて何度も顔を横に振っても、彼はまったくやめてくれない。

「や、もう、やめて…!」
「嬉しいくせに。これだけしか考えられなくなりたいくせに」
「いじ……わる」
「こういうのって、没頭するものだろ?相手が気持ち良くなって欲しいって気持ちは大事だけど、それだけじゃダメだろ?」
「………え?」
顔を私の目線まで戻したスコールが、悪戯っ子のような顔をして私の乱れた髪を掬い取った。
「ふたりでしてる事なんだから、自分が上手くやればなんて、そんな卑下した考えはもうするなよ」
「スコール…」
「はい。お仕置きはこれで終わり。…っていうのは表向きで」
男の人なのに、サラサラできれいな髪をかき上げた彼が、眉を下げて困った顔をした。

「もう余裕ないんだ」
スコールは私の手を取って彼のそこに触れされると、ニコリと笑った。

「仕切り直し、いい?」
「うん。私も欲しい。ぎゅってして、いっぱい大好きをあげたい」
「やっぱり、素直なリノアが一番可愛い」

私は自分で脚を開いた。
自分が気持ち良くなって、彼もそうなって、相手に与えてあげられている喜びを、同じように幸せと感じて——上も下も右も左も、相手との間の位置関係なんて取り払って、ひたすらに求めて与えればいいんだね。
ひとつになるって、とっても難しいけれど、素敵な事なんだね。

ゆっくりとした動きで腰を進める彼の顔は、いつも少しだけ眉が寄っていて瞳が潤んでいる。熱を持った青い瞳はとても色っぽくて見とれていると、視界を奪うように抱きしめられた。

「あんまり見るなよ」
「だって、かっこよかったから」
「その顔、ホントにヤバいから勘弁してくれ。リノアの顔がヤらしくて、何度も自爆しそうになった」
また変な言いがかりをつけてきたスコールに反論しようとしたけど、ダメだった。
開こうとした口に人差し指が当てられたから。

「もう黙って」
艶っぽい笑みのそんな男前な顔をされたら、従うしかないじゃない。
でも従う前に、嵐のようなゾクゾクが襲ってきて、唯一の救いを求めるように、彼の背中に爪を立てた。

「あっ…はぁあ、あ、あ、あ、」
神経が一気にそこへと集中する。言葉にならない声しか出せない。彼の言う『私のお気に入りの場所』を熱いもので何度も擦り上げられると、苦しさと快感と幸福感で胸がいっぱいになる。
涙が溢れて止まらない。

「リノア……リノ…ア、」
彼も激しい動きを繰り返して、うわ言のように私の名前を呼んでいる。
名前を呼ばれる度に、嬉しくて嬉しくて。
愛する人に名前を呼ばれる事がこんなにも幸せな事なんて、私はスコールに出会うまで知らなかった。

「リノア、ごめ、もう……!」
あなたこそ、謝らなくていいのに。お互い様だね。
もう頭は何も考えられないのに、似た者同士って言葉が浮かんで消えた。

「っ!はっ!わた、し、も、も……っ!」
「リノ……アッ…くっ…!」
「スコールっ…あ——————!」
最後の瞬間、彼と私は手を固く握りあって飛んだ。


ふたりで降り立った先は、あの、花の————



***





(あのお花たち、元気かなぁ)

「……………りました。10分後にそちらに伺います。……ええ、大丈夫です。はい、ではまた」
スコールの声で意識が浮上した。
内線電話って事は、お仕事かなぁ。SeeDって本当に大変。

(あれ?私、何か大事なことを思い出した気がするんだけど…)
モゾモゾと動きながら、思い出そうとするけれど思い出せない。とっても大事なことだったのに。
夢ってどうしてすぐ忘れちゃうんだろう。

それよりも、スコールのこと!
仕事じゃなきゃいいんだけど。

「ん…………おはよ、スコール。どうしたの?おしごと?」
「おはよう、リノア。すまない、ちょっとママ先生のところへ行ってくる」
良かった。外のお仕事じゃないんだね。
ホッとしたらまた眠気が襲ってきて欠伸が出そうになる。

「りょうかいです。いってらっしゃい」
彼も起き抜けの筈なのに、妙にスッキリとしたスコールとキスを交わすと、ほっこりとしたあったかさが胸に灯った。

あ!もっと大事なこと!
せめて今日は、ずっと頑張ってきた料理くらい、ご馳走したいな。

「スコール、ね、スコール!」
振り返ったスコールは穏やかな笑みをたたえていて、その顔だけでも何度目か分からない恋に落ちた。頬がどんどん熱を帯びる。

(私また、あなたに恋したよ)
こんな事言ったらどうなるかな。
お仕事終わったら聞いてみよう。

「ね、あさごはん、なにがいい?」
「そうだな…戻ってくるまでに考えておくよ」
「はぁい。きをつけてね〜」
毛布をかぶって手を振って見送ると、我慢していた欠伸が一つ出たきた。
眠気が限界になって、そのまま目を閉じた。




朝は手抜きしても良いか聞けば良かったなぁ。
スコールのリクエストが、サンドイッチかパンケーキだったら、彼にキスしよう。





【0823—Para su felicidad!—】


END




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