「…泣きながらオレの部屋に来た時は、ホントにビックリしたんだぜ」

突っ伏したままのセルフィの頭をポンポン叩きながらゼルはスンと鼻をすすった。

自分の事のように心を痛めて慰めてくれる彼。こんな時、ゼルが『普通に育った』のが良くわかる。

 

「あんがと。ゼルって、ホントにええやつだね。あの子が好きになる理由が分かった」

ゼルに慰められるのは照れくさくて、つい反撃してみる。

「なっ!なんでいきなりそこに話が飛ぶんだよ!」

バッと立ち上がり後ずさったせいで、ゼルの座っていた椅子が勢い良く90度に倒れた。

「で?どこまで進んだの?セルフィ様にはくじょ~しなさ~い!」

冗談めかして脅してみたが、誰よりも分かりやすいゼルの照れた表情で分かってしまった。

 

(あ~…こりゃまだキスもしてない感じだね)

 

某司令官も相当奥手だったけど(最後までいったのは最近ぽいし)ゼルもそういうのに疎そうだし…バラムガーデンの男は少々オコサマなのかも知れない。

 

「おい、やめろって!オレの話より『スコールとリノアを元気にしよう大作戦』の方が大事だろ!」

「ブッ!なにその作戦名!ダサッ!」

「ダサくて悪かったな!でもそのまんまでいいだろ!」

「あははははっ」

ファイティングポーズまで出してゼルがムキになって反論してきたのが可笑しくて、セルフィは思わず声を上げて笑ってしまった。

 

「なんだか賑やかね」

二人がワーワー言っている間に誰かが部屋に入ってきていた。振り向けば、見慣れたコーラルピンクの私服の彼女がこちらに向かってきた。手には紙コップを2つ持っている。

 

「キスティス!」

「おかえり~!任務おつかれ~!」

「ありがとう、二人こそお疲れさま」

そう言うと、キスティスは二人に紙コップを差し出した。中には淹れたてのコーヒーのいい香りがする。

「キスティスのは?」

受け取りつつ訪ねると、「もう飲んできたから」とキスティスはニコリと微笑んだ。

 

「どう?終わった?」

キスティスがセルフィの隣の椅子に腰掛けて散乱した資料に視線をやりながら訪ねてきた。

「おー、終わったぜ!」

そう言ったゼルは、彼女にVサインを出してニカッと笑ってそのまま紙コップの中身をを一気に飲み干した。彼のはアイスコーヒーだったらしい。

「そう。じゃあ予定通りみんなの休みは揃ったわね」

キスティスも気になっていたのだろう、明らかにホッとした顔をした。

「あとは、はんちょが予定通り帰ってくればOKだよ~」

「え?スコールってこれの他にまだ任務抱えてたの?」

セルフィの言葉にキスティスは表情を一転して曇らせた。また急な任務が入ったと思ったらしい。

セルフィは慌てて手を振って否定した。

「ううん、学園長がね『街へ行くなら、一応危険が無いか調べた方がいい』って言ったから、大掛かりな下調べじゃないけど見に行ってる」

「そう。ならいいけど…まぁ、確かに気をつけるに越した事はないけどね」

スコールの事だ、下調べだけでなく周辺のモンスターを一掃しているかも知れない。キスティスはスコールのガンブレード姿が浮かんだ。

 

「そういえば、アーヴァインは?」

セルフィはキスティスに同じ質問をしようとしていたので、目をぱちくりさせた。

「キスティス、一緒じゃなかったの~?アービンもガルバディアから来るからてっきり…」

「ええ。見かけなかったわ。何か連絡来てないの?」

「あ~どうやろ。ゼルのパソコンまだ開いてるよね」

「おお、ちょっと待てよ…お、なんかメール入ってるぞ。よっ、と。……『気になる噂を耳にしたので、ちょっと調べてからこっちに向かう。今日中にはバラムに着く』ってよ。気になる噂って一体なんの事だ?」

全く見当のつかない話だ。噂程度で調べないといけないものって一体何なんだろうか。

「さぁ、任務絡みか何かかしらね?」

キスティスも心当たりはなさそうだ。いつもの癖で腕組みして首をかしげている。

 

(ま、あとで聞けばいいか。でも、女絡みだったらあのテンガロン『ジ・エンド』やな)

 

セルフィがよもやそんな物騒な事を考えているとはつゆ知らずのゼルが、もう一度大きな欠伸をした。

「ふあぁ!でもこれでやっとリノアの願いが叶うからよかったぜ」

「…みんなと街に行きたいなんて、いじらしいわよね」

眉を寄せて瞳を潤ませたキスティスが呟いた。バングルの話を彼女にした時も、同じような顔をしていたなとセルフィは思い出した。

 

バングルの一件の翌日、セルフィは女子寮の廊下でリノアに会ったのだ。屈託の無い笑顔で話しかけてきた彼女が明らかに『いつも通り』を演じているのは分かったが、こっちもそれに合わせて話をしている時に外出許可の話題になったのだ。彼女が左腕を上げて見せてくれた『これ』の試運転の為に外に出る事になったのだと。

「せっかく外に出るなら…みんなと、一緒に遊べたらいいのにね」

そう言って寂しそうに笑った彼女の言葉をなんとか叶えてあげたくて、その足で学園長の元へ直談判しに行った。

半ば無理矢理だったが自分たちの休みをもぎ取って、スコールの抱えている任務の分担も買って出た。

そしてようやく明日、彼女の願いが叶うのだ。

 

「みんなで楽しまなくっちゃね~!お買い物したいなぁ~」

「そうね。明日は荷物持ち班がいるからたくさん買えるわよ。ゼル、よろしくね」

セルフィの意見に同意したキスティスがにっこりとゼルに笑いかけた。

「…しゃーねーなぁ」

 

荷物持ちを渋ってお姫様方に機嫌を損ねられてしまった方が、よっぽど大変な事になるとゼルは先の長旅で骨身に沁みているのだった。

 

 

 

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