大抵のことは慣れたとは言ったが、予想以上だった。

 

ジャガイモの皮を怖々剥いているリノアを見て、心の中で溜息をつく。

(これ、一日じゃ終わらないんじゃないか?)

 

とりあえず、用事をさっさと済ませてしまおう。

 

「リノア」

声を掛けると、リノアが「へっ?」と素っ頓狂な声で返してきた。

「シュウのところに行ってくる」

「あ、そっか。シュウさんにお礼言っておいてね。私も後で言うけど」

「ああ」

 

廊下に出た瞬間、どっと疲れが襲ってきた。

 

(やれやれ…)

ピーラーを持たせたとはいえ、このままじゃ流血沙汰になりかねない。

スコールは早歩きだった足を更に急ぐべく駆け出した。

 

 

「まいどあり〜!やった〜」

図書室近くの廊下ににいたシュウは、ホクホク顔で手に持ったコートとブーツを床に置いた。

スコールが次に『それ』を渡すと、彼女は素早くカードケースに仕舞い込む。

「こんなことしなくても貸したのに」

「いいんだ。助かった」

「いいって。リノアだって息抜きぐらいしたいだろうしさ。みんな心配してるぞ、リノアの事」

「そうか…」

みんながリノアの事を気にかけてくれているのが、自分の事のように嬉しい。

 

「また何かあったら言ってくれ。『キング』のカードはもう貰ったから、今度はもう何もいらないからな」

「ああ、すまない」

 

 

シュウと分かれてからすぐに早足で部屋に向かう。渡り廊下の直前、見慣れた顔を見つけた。ジェスンだ。

白いコートを着ているという事は、どうやら除雪組に入れられたらしい。

 

「スコール司令官、お疲れさまです!」

「お疲れ。終わったのか?」

「いえ、まだ。とりあえず1時間休憩になりました。ニュースで見ましたけど今までで一番降ったそうですよ」

「そうか」

「みんな、なんだかんだで浮かれてます。あ、そうそう!僕らよりもすっごく浮かれてるバカップルもいたみたいですけど」

「…バカップル?」

 

(なんだか嫌な予感しかしない)

 

「あ、画像撮って来たんですけどご覧になりますか?映画では見た事あったけど実際やる人いるんですね〜」

 

ジェスンが手慣れた手つきでデジカメの画像をスコールに見せる。

 

「………!」

「びっくりですよね〜。雪降ったのが相当嬉しかったんでしょうね…って、し、失礼しました!」

慌てて敬礼をしてジェスンが走り去っていく。

スコールの顔が余りにも恐ろしかったのだ。

(ひ〜っ!司令官のキレ顔恐ッ!あれやったやつ、知らないぞ〜)

ジェスンは見知らぬ誰かへ心で十字を切った。

 

 

 

誰も居なくなった廊下でスコールは口を手で覆った。

よろよろと壁に凭れ掛かる。

そうでもしないと羞恥で叫びだしそうだったからだ。

赤面しているのが自分でも分かるぐらいに熱い。

 

(まさか、あれが、そうだったなんて……!)

 

 

恥ずかしい!

恥ずかしい!!

恥ずかしくて死にそうだ!

 

 

 

 

 

雪の足跡で型取ったハートの中に二人の形がくっきりと残されていた。

画像を思い出すだけで、顔から火が出そうだ。

 

 

(頼むから、誰も…俺の事を見るなっ…!)

 さっきよりも5割増に疲れが出てきたスコールは、心に決めた。

 

 

(リノア、覚えてろよ…今日はスパルタだ)

 

 

 

 

その後、スコールの部屋からリノアの「ごめんなさ〜い!」が何度も聞こえた……らしい。

 

 

おしまい