S様へ。
タイトル、中国語だとこう書くそうです。
お粗末様です。
以下お話です。
世間知らずだし箱入りなのは自覚してたから、何も知らない初心な子だと思われたくなくて、知識だけは結構ある方だと思う。
でも、実践しなくちゃ分からないものだってたくさんある事も知ってる。今晩試そうとしてる『これ』もその一つ。
「柔らかい所…二の腕とか。そこならリノアでも付けられるんじゃないか?」
「そうなの?」
「要は内出血させるだけだから」
「そうなんだ…」
スコールが唇を寄せていつも私に付ける赤い印。知識としては知っていたけれど、自分で試した事はなくて。
彼氏の部屋で、教師と生徒みたいにキスマークのレクチャーを受けてるのがひどく滑稽に思える。
「これから私達そういうことします」って時なのに、妙に真面目くさってスコールが事細かに教えてくれるから余計に笑いそうになっちゃう。
キスマークなんて、恋人や夫婦ならみんな通る道(?)なのに、いけないことしてる気分になるのは、まだ下着だけ身につけているからだろうか。
「ほら、やってみて」
差し出された腕を取って、言われるがまま内側の柔らかい部分に口をつけた。彼の二の腕の内側は普段長袖を着ているせいもあって、かなり白くて女の子の肌みたいにすべすべだ。
自分のなかのエッチな知識とお伺いしたレクチャーを総動員して、自分なりに強めに吸ってみた。
けど、離してみたら、ふわっとした赤みがあるだけですぐに消えてしまいそうだ。私の体にあるのとは全く違う。
「うまくいかないよ?」
「多分、吸う範囲が広いんじゃないか?俺のは…こんな感じ」
言うが早いか、彼が私の二の腕を取って一舐めしてから吸い付いた。吸う直前の舐め方がとってもいやらしかったから、私の中心がキュッとなって一気にそういう気持ちになった。
いつもは刺激に夢中になっていて、彼がどうやってキスマークを付けてるかなんて知らなかったから、伏し目がちに私の腕を吸引している彼の顔が想像以上のセクシーさで目を逸らしたくなった。
けど!ダメよ、リノア。ちゃんと見ないと、彼の首筋に自分のキスマークを付けたいなんて夢は夢のままになっちゃう。
なんの為に、恥ずかしいのを我慢して「キスマークの付け方教えて」っておねだりしたの?
自分を叱咤して腕に集中してみると…確かに小さい範囲で吸われている感覚がする。
スコールが腕から離れると、そこはくっきりと赤く鬱血している。
「どんな感じだった?」
「うん。キューッって、点みたいに吸われてた気がする」
「お手本は見せたから、今度は出来るよな?期待してる」
「やだ。その言い方、先生みたい」
「先生か…。じゃあこのテスト、上手く出来なかったら追試と補習だからな」
ニヤリと笑ったスコールの企んだ青い瞳を見たら、嫌な予感しかしないんだけど。『こういう時』のスコールってちょっと意地が悪い。
でも、悔しいけど、嫌いじゃ…ない。つくづく私はスコールに弱い。
「分かった。腕、貸して?」
さっきとは反対の腕を借りて、おまじないのように彼と同じくペロッと舐めてから吸ってみた。
さっきよりも口を窄めて、一点を強く。さっきのお手本と同じようになるように。
呼吸の限界まで頑張った、運命の結果は————?
「ほら、出来た」
「ホントだ…赤くなった」
彼の腕に小さな小さな赤い模様。私が付けた初めてのしるし。うまくいって嬉しいんだけど、でも…。
「息が苦しくなっちゃったぁ…」
こんなに力を使うなんて思ってもみなくて、長いキスをした時のようにクラクラしてしまった。
そんな私を見て、スコールがクスクス笑い出した。
スコールってやっぱり、笑った顔の方が素敵だし可愛いよね。些細なことでも笑ってくれるのは嬉しいな。
「そんな頑張らなくても、コツが分かれば付けられるようになるさ」
「じゃあ、上手に出来るまで、何度でも付き合ってね」
何の気無しにそう言ったら、スコールが目を見開いて動きを止めた。そのまま盛大な溜息をついて俯いてしまった。
「スコール?」
「だから…いつも言ってるのに」
「?」
「リノア、それって」
「え、どうし…キャッ!」
私が言い終わらないうちに、彼は私をシーツに縫い留めて何度もキスの雨を降らせてきた。
キスだけじゃない、さっきの強い感覚がそこかしこに感じられて一気に呼吸が跳ね上がる。
頤、首筋、鎖骨———馴染みのある軽い痛みに酔わされて、そういえば私達セックスの最中だった…なんて、今更思い出してしまった。
「別件で不合格。追試と補習だ」
キスから手での愛撫に変えてきた彼がそうぼやいた。
「んんんっ…!ど、うして?」
「何度でもなんて言われたら、何度でも抱いてくれって誘ってるとしか思えない。誤解を与えるような言動はリノアの悪い癖だ。だから不合格」
「そんなつもりじゃ…!」
「その反論は却下。キスマークって元々そう言う時のものだろ?」
やけに真剣に正論を言われて、何も言い返せない。言葉の詰まった私を見て、彼は苦笑と一緒に頬にチュッとキスをひとつくれた。
「頼むから、誤解を招く言動はここだけにしてくれ。よそでされたら、嫉妬でおかしくなる」
「スコールも…嫉妬するの?」
「知らなかったか?なら、覚えておいてくれ」
「はい、スコール先生。以後気をつけます」
「素直でよろしい」
ひと呼吸の後、四角四面の受け答えに二人して同時に吹き出してしまった。
笑いながら彼の見た目よりうんと柔らかい髪に手を差し入れれば、私を包むような眼差しをして微笑んでくれた。
ああ、大好き。やっぱりスコールの笑顔が好き。
「スコール先生、質問があります」
「なに?」
「その笑顔は私だけのものですよね」
「当然」
何を今更って顔をしたスコールがサラッと答えて、私のブラに手をかけてきた。
「あ、先生。もう一つ質問が」
「忙しいんだけど。今度は、なに?」
「追試と補習って…何を?」
言ってから、しまったと思っても後の祭り。もうその答えは分かってたはずなのに!私のバカ!
「そうだな…追試は、さっきのキスマークの出来が甘かったからもう一度『俺の』講習を受けてもらう。補習は…」
「やっぱり言わなくていいです…」
「質問したのはリノアだろう?」
「うぅ…」
器用に下着を取り払ったスコールの手が、胸を包んでやわやわと弄り始めた。
「補習はこれだな」
そう言って、私にかざした指の本数を見て、明日の午前中の予定はキャンセルすることにした。