お誕生日おめでとうございます!

さなおさんのお誕生日おめでとうございますSSです。
「スコールは今度の誕生日、何が欲しいの?」

いつものように、俺の部屋に入り浸っているリノアが、いきなり問いかけてきた。
ウキウキとした声からして、何か企んでいるのは見え見えだった。
さっきから見ている雑誌の特集に感化されたらしい彼女は、どうやったら俺を引っ張って来られるかを考えているようで、心の底で見えない溜息をついた。
絶対ペアルックなんて恥ずかしくてしないからな!…なんて言ったら確実にこのお姫様は機嫌を損ねるだろう。

「特に何も」
「えーっ?毎年考えるの大変なんだよー!」
このやりとりも何回目だろう…。ただ、祝ってくれるだけで嬉しいから、プレゼントは要らないと言っているのに、彼女は直前までウンウン唸りながら毎年プレゼントをくれるのだ。
今年はどうやらペアもので攻めてくるようだ。それだけは、なんとか回避したい。
(なら、こっちも攻めてみよう)
向こうがプレゼントをペアルックで企んできているなら…。

「リノア」
「なに?」
「やっぱり欲しいものができた」
「ホント?なになに?」
「バースデースーツがいい。揃いの」
「バースデー…スーツ?」
やっぱりリノアは知らなかったらしい。
内心ほくそ笑みながら、努めて冷静に頷いた。
「頼めるか?」
「うん、分かった!」
目を輝かせて二つ返事で了承したリノアに念押しした。
「あれは、一度頼むとキャンセル出来ないんだ。それでも良いか?」
「大丈夫!リノアちゃんは約束を絶対守るのだ!」
「ありがとう」
にっこり笑って礼を言うとリノアの頬が嬉しそうに染まった。
少し罪悪感が湧いたが、種明かしは…まだ先だ。

***

「安請け合いしちゃったけど…どこに売ってるんだろ…」
本にもさっきの雑誌にもそんなスーツがあるなんて書いてなかった。
お誕生日専用のスーツってバラムだけの伝統なのかな?
博識のキスティスなら知ってるかもしれない。
と、廊下の向こうからキスティスの姿を見つけて飛び上がった。

「キスティス〜!」
手を振って彼女の名前を呼ぶと、キスティスも笑って手を振り返してくれた。

「リノア。どうしたの?そんなにはしゃいで」
「運命の出会いに感動してたの!キスティスに相談したい事があって!」
「そうなの?なぁに?」
「バースデースーツってどこで売ってるの?」
聞いた瞬間、キスティスの顔が固まって引き攣り出した。

「リ、リノア…それ、誰から?」
「え?スコールが誕生日にお揃いで欲しいって…」
「そ、そう…(あんの、ムッツリ変態!)」
「…キスティス?」
「ご、ごめんなさい、私には分からないわ。スコールに直接聞いた方が良いんじゃないかしら?」
「?そっかぁ…呼び止めてごめんね、キスティスありがとう!じゃあまた!」
残念だけど仕方ないよね、他の人を捜さなくっちゃ!
「お役に立てなくてごめんなさいね(リノア…ごめんね、知ってるけど私の口からは…)」

***

「あっ、リノアだ〜!まみむめも〜」
「セルフィ!アーヴァインも!おつかれさま!」
「おつかれ〜リノア、スコールのとこじゃなかったんだね」
「うん、ちょっと調べものしてて」
もしかしたら2人は知ってるかも!聞いてみよう!

「2人に聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「な〜に〜?」
「バースデースーツってどこで売ってるの?」
「なんやそれ?アービン、知っとる?」
「……リノア、それ、他の人にも聞いた?」
「うん。最初にキスティスに聞いたけど、分からないって」
「そ、そうなんだ…(そりゃ、言えないよね、キスティ)」
「なんや、アービン、知っとるならリノアに教えてやりーな!」
「いやぁ……知ってると言うかなんというか…」
「お願い!スコールとお揃いにしないといけないの!」
「?!スコールと?!?!?!?(スコール、あんたって人は…)」
アーヴァインが珍しく言い淀んでる。なんでだろう。そういえば、キスティスも様子が変だった。
もしかして、とってもレアなのかな…

「本にも雑誌にもなくて、困ってるの。知ってるなら教えて!」
「ちょっと待って…セフィ、ちょっと…」
「え〜なんや?リノア、ちょっと待っとって〜」
「う、うん…」
(えっ?そんな内緒話するようなものなの?スコール、私に何を頼んだの?)

「(え?え?ホンマに?うわー、えげつな!)」
「(だろ〜、リノアがちょっと可哀想だよね〜)」
「(よ〜し!はんちょにお灸をすえたる!)」
「(え?セフィ、そこまでしなくても)」
「(いいや、可愛いリノアをいじめた罰や!)」
「(なんだかややこしくなってきたな…)」

***

「で、なんであんた達までここにいるんだ」
不機嫌MAXで言っても、黄色い俺では全く効果が無かったようだ。

「だって、リノアがお祝いはみんなでした方が楽しいっていうしよ〜」
黄色いゼルがパンを齧りながら暢気に答えた。

「はんちょ〜、たまにはこんなのもええやん!」
黄色いセルフィもご機嫌で揺れている。

「これ、案外可愛いわね。学園祭で使えるんじゃ無い?それに冬だとあったかくていいかも」
黄色いキスティスは相変わらずマイペースだ。

「エスタ製なんだよ!キロスさんに頼んで送ってもらったの!」
黄色くて可愛いリノアが微笑みかけてきた。

「まさか、スコールがこんなの欲しがってるとは思わなかったよ〜!」
黄色いアーヴァインものほほんとしている。

「スコール、気に入ってくれた?『バースデー”チョコボ”スーツ』!」
「あ、ああ……」
「よかったー!」

部屋中にひしめく黄色。
チョコボの着ぐるみを来たSeeD5人と魔女1人。
因みに、俺の着ぐるみだけ額に王冠が刺繍されている。
『欲しい』と言った手前、拒絶は不可能だった。
まさか、エスタにそんなものが存在してるなんて予想だにしなかった。
こんな姿をメンバー以外に知られたら…特にエスタのお祭り野郎に知られたら、俺は恥ずかしさで悶死するかもしれない。
これなら、リノアが考えたペアルックの方が何十倍もマシだ。

「はんちょ〜!はいこれ!バースデーカード!」
「ああ、ありがとう」
セルフィから受け取ったカードの文面を見てぎょっとした。

《誕生日おめでと〜!
これに懲りたらリノアをいじめちゃあかんで!
またいじめたら、ネットにこれ流すからね〜!
そもそもバースデースーツなんていっつも見てるやろ!
ごちそうさん♪》

「(やられた………)」
誕生日の最初の決意は、『人をだますのは絶対に止めよう』にすることにした。


でも、本物のバースデースーツは絶対にいただいてやる!